民事控訴審の概略(留意点)
控訴提起
民事控訴の起訴は,判決書(又は代替的口頭弁論調書)の送達後2週間以内に行うことが必要です。
控訴状の提出先は,第一審裁判所(控訴裁判所に非ず)に限定されています。
審 理
民事控訴は当事者が第一審判決(原判決)の取消又は変更を求める不服申立てですから,控訴人はその具体的事由を記載した書面(「控訴理由書」)を控訴提起後50日以内に控訴裁判所へ提出する義務があります。
被控訴人は,裁判長の命令により,控訴人主張の上記控訴理由に対する主張(反論)を記載した書面(「反論書」)を所定期間内に提出する必要があります。
民事控訴審の訴状手続には,第一審の訴訟手続規定が原則として準用されるので,控訴審の審理においては,当事者は訴訟の進行状況に応じた適切な時期(随時に非ず)に,新たな攻撃防禦方法を提出する必要があります(法297,156)。
また,控訴審の審理の充実,促進を図るため,当事者は,裁判長の定める期間内に,新たな攻撃防禦方法の提出,請求又は請求原因の変更,反訴の提出等を,適時に行う必要があります(法301)。
このような訴訟資料(攻撃防禦方法)の提出方式を「適時提出主義」と言います。
なお,これにより,民事審訴審における当事者の「更新権」は,事実上の制約を受けますので,当事者には,より適正,迅速な訴訟活動が要請されます。
民事控訴審では,当事者が原判決の取消し又は変更を求める範囲内(不服申立の限度)で,原判決の当否について審理,判決が行われます(法246,296)。
これを専門用語で「処分権主義」と言い,民事事件の私的自治の原則に由来する民事訴訟の基本的原則です。ちなみに「訴えなければ裁判なし」の法諺は,この原則の精神を端的に表したものです。
民事控訴審は,このような審理構造ですから,例えば,控訴人のみ控訴を提起し,被控訴人は控訴も附帯控訴も提起していない場合は,原判決が,控訴人の不服申立ての限度を超えて控訴人に不利益に変更されることは,原則としてありません(法304)。
これを専門用語で「不利益変更禁止の原則」と言い,控訴人の正当な控訴権を事実上保障する機能を果たしています。
判 決
控訴裁判所が,控訴を適法として,実質的な裁判(「本案判決」)を行う場合
① 原判決の結論が相当で,控訴理由がないと認めるときは,不利益変更禁止の範囲内で,「控訴棄却」の判決をします。
② 原判決の結論が全部又は一部不当で,控訴理由があると認めるときは,控訴人の不服申立ての範囲内で,原判決の全部又は一部を取消し又は変更する旨の「控訴認容」判決をします。